文化・景観

八ヶ岳南麓 湧水巡り ~その2~

八ヶ岳南麓 湧水巡り ~その2~

富士見町の多くの家では、来客から「お水ください」と言われた時、躊躇なく水道の蛇口をひねり、出てきた水をコップに受け、「どうぞ」と渡すのではないだろうか。
富士見町にはいい水がある。
それは、富士見町の地形と関係があるのだそうだ。(第2話)

※第1話はこちら

東出口湧水

 

八ヶ岳南麓 湧水巡り~東出口湧水~

八ヶ岳南麓 湧水巡り~東出口湧水~

開かれた地形の中にあり、ひっそりと佇んでいるような湧水である。
暑さのさなか、ここを目指してやってきて、ひんやりする水を掬って飲み、しばらく手を浸す。何だか生き返ったようだと感じ、ほおっとため息が出る。そんな湧水。
見かけはそんな湧水だけれど、湧水量は多く、ここでも下流にたくさんの田畑が作られる。下流域には「田端」という名前の集落もある。

ここは「東出口」と呼ばれるが、近くには「西出口」も。
「出口」! そのものずばりのいい名前!

この辺りの湧水の水温は、年間を通して10度前後だという。
多くの湧水がほぼ同じ等高線上にあるというのも興味深い。

 

井戸尻湧水

 八ヶ岳南麓 湧水巡り~井戸尻湧水~

 八ヶ岳南麓 湧水巡り~井戸尻湧水~

 八ヶ岳南麓 湧水巡り~井戸尻湧水~

 

湧水口は井戸尻遺跡・竪穴式住居の東側の崖下。
縄文人が煮炊きや土器作りに使うため、同じ場所で水を汲んだかもしれない所。
それから5000年。縄文人が住んだ土地に今もって人が暮らす。よい水がある所に人は住み続ける。

今、湧水口の近くで、ニジマスが養殖され、せりやわさびが育てられ、その下には、井戸尻考古館の蓮や睡蓮の田が広がる。

 

上蔦木御前水

 八ヶ岳南麓 湧水巡り~上蔦木御前水~

 八ヶ岳南麓 湧水巡り~上蔦木御前水~

 

「七里ケ岩からの湧水を利用し、明治39年頃蔦木宿の街道筋に16箇所の水道施設を造り、飲料水として昭和26〜27年頃まで使用されていたという。今は施設の石のみが保存される」との標示がある。  10メートル程離れて小さな湧水池があり、石の間から少しずつ水が落ちていた。

標示版の下に、与謝野晶子の歌碑。
「白じらと並木のもとの石の樋が 秋の水吐く蔦木宿かな」

 

私たちにたくさんの恵みを与えてくれる湧水。
そこに行くと穏やかな優しい気持ちを取り戻させてくれる湧水地。
大切にし、生活に取り入れてきたたくさんの人たちの思いを感じる場所でもある。

この町に、いくつもの湧水があることを幸せに思う。
湧水の中には、枯れたり水質が悪化したりしているものもある。将来に残すにはどうしたらいいのか。どうしたらいいかわからないけれど、とにかく気にかけていたいと思う。

静かに楽しみ、守っていきたい富士見町の《オアシス》!

※参考 「富士見町史 上巻」

 

(Written by 村上不二子)

 

富士見町の文化と景色を、様々な切り口で紹介しています。