文化・景観

地質学的な視点で見る景色~富士見に広大な景色が広がるのは~

地質学的な視点で見る景色~富士見に広大な景色が広がるのは~

今、地質学的な視点で風景を見ることが大はやりだそうです。
その視点で見ると、今まで何気なく見ていた景色がちょっと別のものに見えてくるらしいのです。

富士見町の景色はどうでしょう。
この町はフォッサマグナの中に、そしてフォッサマグナの際(きわ)にあります。フォッサマグナと関わらせてあらためてこの町を眺めたら・・
見えて来た風景を紹介します。

 

フォッサマグナとは。

 

命名したのは、あのナウマンゾウに名前を貸したエドムント・ナウマンさん。
ラテン語で「大きな溝」を意味するそうです。
北は新潟県の糸魚川から南は駿河湾・相模湾まで、西は糸魚川−静岡構造線から東は柏崎−銚子構造線までの巨大な低地がフォッサマグナです。(東縁については諸説ある中、現在、柏崎−銚子構造線説が最有力になっているそうです)

富士見町はフォッサマグナの南北方向のほぼ中央部、そして、東西方向では西縁部に位置します。町の東端には、フォッサマグナの中にできた火山の山・八ヶ岳がそびえています。

「フォッサマグナ」(藤岡換太郎著 講談社ブルーバックス)によると、ドイツから日本の地形を調べるためにやってきたナウマンさんは、1875年、野辺山を南下した平沢という集落に宿泊。翌朝、眼下の釜無川の流れる平坦な台地の向こうに、2000m以上の高さのある南アルプスの山々が壁のように突っ立っている姿を見て、「こんな光景がこの世にあるだろうか。こんな大きな構造は見たこともない」と言ったのだそうです。
ナウマンさんが感動したのは山梨県の風景ですが、なんと富士見町にも同じような景色が広がります。

 

八ヶ岳の麓にある 富士見高原リゾート 創造の森 からの展望

 

まず、八ヶ岳の麓から、ナウマンさんと同じ方向を眺めます。平坦な台地が南北に広がり、その向こう(西側)に南アルプスの山々が壁のように立っています。
山が立ち上がる辺りに、山並みに沿って糸魚川−静岡構造線。その手前、南北にそして東にフォッサマグナの台地が広がります。

地質学的な視点で見る景色~富士見に広大な景色が広がるのは~
創造の森から見ると、南西方向には平坦な台地の向こうに南アルプスの甲斐駒ケ岳(中央)と鳳凰三山(左端)。平地には人の暮らしが見え、雄大だけれど和やかな眺めです。

 

地質学的な視点で見る景色~富士見に広大な景色が広がるのは~
手前は創造の森展望台。その先にいくつもの集落と農耕地のある平坦な台地。そして、その先に入笠山。

 

地質学的な視点で見る景色~富士見に広大な景色が広がるのは~
北西側の展望です。平地の右上に見えるのは諏訪湖。その隣に諏訪大社と関係の深い守屋山が見えます。

 

 

入笠山 ゴンドラ山頂駅近くの展望台からの眺望

 

今までとは逆。南アルプス側から、八ヶ岳方向を見てみましょう。

 

地質学的な視点で見る景色~富士見に広大な景色が広がるのは~
台地の向こうに八ヶ岳が広がる大パノラマ。雄大です。

 

地質学的な視点で見る景色~富士見に広大な景色が広がるのは~長く滑らかに裾を引く八ヶ岳。平坦な土地の中に、八ヶ岳の噴火に伴う流山や溶岩流の森、糸魚川−静岡構造線のずれによりせり上がったと言われる小丘も見えます。向こうに見えるのは茅が岳。

 

地質学的な視点で見る景色~富士見に広大な景色が広がるのは~
一番低い所を通る国道20号線と釜無川に沿って、集落や耕作地が続きます。

 

 

富士山がよく見える富士見町

 

フォッサマグナの中にある富士山と富士見町。富士見町では平地からでも、至る所で富士山を見ることができます。
富士見町には「関東の富士見百景」に選出された富士山ビューポイントが3つあります。創造の森と葛窪中央道トンネルと立沢大規模水田地帯です。でも今回はそれ以外の、平地から眺めた富士山を紹介します。選出されていない場所からの富士山の眺めもみごとです。

 

地質学的な視点で見る景色~富士見に広大な景色が広がるのは~
井戸尻考古館前から

 

地質学的な視点で見る景色~富士見に広大な景色が広がるのは~
下蔦木地区から

 

地質学的な視点で見る景色~富士見に広大な景色が広がるのは~

地質学的な視点で見る景色~富士見に広大な景色が広がるのは~

地質学的な視点で見る景色~富士見に広大な景色が広がるのは~
2022年1月1日、葛窪地区と池袋地区の境界付近から見た富士山の日の出三景。
平地から富士山の日の出が見えるなんて素敵です。「あ〜、間に合った」なんて言いながら、家から走って来た家族もいました。

 

 

北アルプス遠望

 

富士見から松本まで約44km。北アルプスは松本からずっと先。にもかかわらず、高い山に登らなくても、富士見町の平地から北アルプスを見ることができます。富士見町の北側の先にもずっとフォッサマグナが広がっているからでしょう。

 

地質学的な視点で見る景色~富士見に広大な景色が広がるのは~
ぼやけて蜃気楼のようになった北アルプス。カメラも撮影者の腕もおそまつなのが原因ですが、ここは北アルプスがあまりに遠いからということにしていただきましょう。烏帽子地区のJR中央線線路横の県道から。(もう少し標高の高い集落からは北アルプスがくっきりと見えます。)

 

 

富士見の市街地からこんな山の景色も

 

例えるならU字溝の底にある富士見の市街地から、壁面にあたる東西方向の山は、春夏秋冬、朝から晩まで、表情の変化を楽しめます。

 

地質学的な視点で見る景色~富士見に広大な景色が広がるのは~
富士見駅の跨線橋の上から見た八ヶ岳の山々。
ここで質問。赤く光っているのは何岳でしょう。簡単すぎる問題でしたね。

 

地質学的な視点で見る景色~富士見に広大な景色が広がるのは~
南アルプスで最も登りにくいと言われる鋸岳。確かに近寄りがたい迫力です。

 

地質学的な視点で見る景色~富士見に広大な景色が広がるのは~
甲斐駒ケ岳の夏。「もし日本の十名山を選べと言われたとしても、私はこの山を落とさないだろう」と著書「日本百名山」で深田久弥。

 

 

南アルプス(中央構造線エリア)ジオパーク

 

実は「南アルプス(中央構造線エリア)ジオパーク」に富士見町の一部が入っています。パンフレットに「入笠山では海底起源の岩石が見られ、糸魚川−静岡構造線に沿う地形や八ヶ岳連峰の眺望は絶景です。標高1700mの高所に花々が広がる入笠湿原、深く刻まれた釜無渓谷など、雄大な景観も楽しめます」とあります。
またいつか、入笠山や釜無渓谷を紹介したいと思いますが、今回は、フォッサマグナに関連して、パンフレットの地図に載っている糸魚川−静岡構造線の露頭のみ紹介します。

 

地質学的な視点で見る景色~富士見に広大な景色が広がるのは~

地質学的な視点で見る景色~富士見に広大な景色が広がるのは~
糸魚川−静岡構造線の先能露頭。先能というのは地区の名前です。「黒色粘板岩層や砂岩層とその上に乗っている新しい先能礫岩層を切る糸魚川−静岡構造線(破砕帯)を確認することができます。」と標示にありました。はて?

 

地質学的な視点で見る景色~富士見に広大な景色が広がるのは~
糸井川−静岡構造線の近くを流れる釜無川。先能露頭のすぐ隣、机集落から撮影。

 

独特な立地にあるこの町の、雄大な景色の広がりに心が踊りました。
多くの人に来ていただいて、実際に見て感じて楽しんでもらいたいと思います。
(そしていつか、フォッサマグナの起源も含め、専門家のガイドによる「地質学から見た富士見の眺望」をお届けできるといいです。)

 

参考資料

  • 「フォッサマグナ」(藤岡換太郎/著 講談社ブルーバックス)
  • 「はじめての地質学」(日本地質学会/編著 ペレ出版)
  • 「南アルプス(中央構造線エリア)ジオパーク」(南アルプスジオパーク協議会発行パンフレット)

 

 (Written by 村上不二子)

 

富士見町の文化と景色を、様々な切り口で紹介しています。