文化・景観

犬養さんを感じる庭 ~白林荘~

犬養さんを感じる庭 ~白林荘~

あの犬養木堂ゆかりの場所が富士見にある。犬養さんが愛してやまなかった所で、すばらしい景色らしい。
ところが、実際に見学した人は思いの外少なく、長いこと富士見に住んでいる人たちも、「行ってみたいけど、どうやったら入れるかわからない」と言う。

私たち一般人が見学できる機会はないのか探していた矢先、何気なく手に取った富士見町観光協会の「おひさんぽ」のパンフレットに、「白林荘」とあるのが目に飛び込んできた。秋の文学コースの訪問先に、白林荘が入っている! 後先考えず、すぐに申し込んだ。

 

2021年11月6日。抜けるような青空の日、おひさんぽに参加した。
富士見駅から国道20号線に出て、分水嶺を入笠山方面に曲がり、100メートル程の所に白林荘はある。

犬養木堂、本名犬養毅。明治、大正、昭和初期の日本の政治の中枢にいて、憲法、政党政治、普通選挙などを通し、立憲政治の実現に命をかけた人。
1932年、軍による戦争拡大を止めようとし、銃に撃たれ「話せばわかる」という言葉を残した人。伝記に寄れば、犬養さんは最後に「テル、もう帰ろうや・・」と2回つぶやいたという。“お手伝いのテルさんを連れて、帰ろうとした先は白林荘だったのではないか”と伝記の作者は書く。

その白林荘は、1924年(大正13年)に建てられた。
犬養さんが初めて富士見に来たのは1921年。翌22年には26日間も滞在し、ここを晩年の地にしようと決めたのだそうだ。

犬養さんを感じる庭 ~白林荘~

何気ない鉄の柵。その片端に掛けられた犬養さんの書による表札「白林荘」。
傍らにその文字を石に刻んだ碑。
大きく息を吸い込んで、一歩中へ。

 

犬養さんを感じる庭 ~白林荘~

門を入ると、切り通しの上り坂が続く。両側の土手の上は黄色く色づいた木々。紅葉のアーチは緩くカーブしていて、先に何があるかわからない。ここは犬養さんに近づく絶妙のしかけで、ワクワクドキドキが高まった。

 

犬養さんを感じる庭 ~白林荘~

カーブを曲がった時、突然右手の目の前に、赤く色づく雑木林が広がった。

 

犬養さんを感じる庭 ~白林荘~

左手には、犬養さんの書による王臨川の詩の石碑。犬養家から白林荘を譲り受けた山縣勝見氏が1965年に建立したものだという。

 終日山を観て山に厭きず 山を買って老いを山間に待つ
 山花落ち尽くして山長えに在り 山水空しく流れて山自ら閑なり

まさにこれが、犬養さんの心境だったのだろう。

 

犬養さんを感じる庭 ~白林荘~

正面に本宅。

 

犬養さんを感じる庭 ~白林荘~

本宅近くにある、「老栗亭」。わざわざここを建て、犬養さんは近所の青年たちと夜な夜な、政党政治について普通選挙について、また、富士見の風土に合う野菜などなどについて語り合ったという。(現在の建物は山縣氏が改築)

 

犬養さんを感じる庭 ~白林荘~

犬養さんを感じる庭 ~白林荘~

本宅前に植えられたハナノキ。岐阜、愛知、長野の県境に自生するというハナノキの苗木を、犬養さんはわざわざ木曽から取り寄せたのだそうだ。

「ハナノキ」というのだから、きっと花がすばらしいのだろうが、紅葉もみごと。「花の時期にも、おひさんぽをやってください」と観光協会の人にリクエストした。ヤマユリの頃や、犬養さんが大好きだったという、夕日に染まった八ヶ岳が見えるかもしれない落葉の季節にも、是非是非、公開日を設けてほしい。

 

犬養さんを感じる庭 ~白林荘~

辛亥革命の孫文は、若い日、犬養さんにかくまわれ、犬養家で長風呂を楽しんだり、オムレツを食べたりしたという。その孫文に頼んで中国から送ってもらった白松。犬養さんは孫文を身近に感じていたかったのだろうか。今あるのは 山縣氏が再度中国から送ってもらった木らしいのだが、ハナノキの横に、楚々として立っていた。今、富士見にいて、孫文と繋がるとは・・

 

犬養さんを感じる庭 ~白林荘~

松林の中にある白樺の美しさから、犬養さんはここを「白林荘」と名付けたのだそうだ。たっつけ(もんぺ)履きで、自ら青年たちと白樺の植林をしたという。

  

犬養さんを感じる庭 ~白林荘~

散策の最後に見た敷地南端にある石仏群。これはどういうものなのか。

 

白林荘には至る所に、犬養さんのエピソードが残っている。犬養さんの時代と2021年の今が行き来する、まるで魔法のような場所。

もし、白林荘で一日中自由に過ごしていいと言われたら何をするだろう。ハナノキの落ち葉の上で、犬養さんを思いながら終日ごろごろするのもいい。お孫さんである犬養道子さんの本の読書会をしてもいい。夜な夜な語り合ったという青年たちのご子孫の方からお話を伺いたいし、地域の人に植え付けを勧めたという「イヌカイマメ」がまだあるなら、食べる会もやってみたい。
夢が広がる。

犬養さんのような大きい人の痕跡を辿るのは本当に楽しい。
譲り受けた所有者の方により、白林荘は犬養さんの願い通りの場所として大切に保持されていて感激した。

100年経っても伝わって来る犬養さんの人柄や思い。
白林荘が富士見にあることを嬉しく思う。

ちなみに、21年度のおひさんぽには 富士見の自然や歴史、文化などを体験する9つのコースが設定されているそうです。それぞれにガイドさんが付き(今年度の文学散歩のガイドさんのポイントを押さえたご説明に感謝!)、どれも充分満足できる内容だと思います。来年度以降もほぼ同様に実施されることでしょう。白林荘が含まれる文学散歩を初めいろいろなコースに参加し、富士見を楽しんでください。
 
  
【参考資料】

  • 「白林荘」 (日達良文/著 ファイナル出版)
  • 「狼の義 新犬養木堂伝」 (林新、堀川惠子/著 角川書店)

 

(Written by 村上不二子)

 

富士見町の文化と景色を、様々な切り口で紹介しています。