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富士見町の農業を支えた "肝っ玉母ちゃんたち" の話

富士見町の農業を支えた "肝っ玉母ちゃんたち" の話

今回は、僭越ながら私の個人的な話から・・・。

H15年に富士見町の議員に立候補して当選しました。富士見町に移住してから知り合い、支援していた市民派議員が降りたいというのに後継者がいなかったというのが一番の理由。ごく普通の主婦だったのですが、前任の議員さんを見ていて権力を持っている行政と戦わなければ!と、ガチガチに肩を張って挑んだわけです。

当選してしばらくしたある日、「今度、農村女性の会があるから出席してちょうだい」と電話がありました。議員になったばかりで、どんな会なのかも全くわからず、「議会事務局に、出席しても問題ないか確認してからお返事します」というと「そんな会じゃないわよ~」と、一笑されて電話を切られました。
それが農村女性連携会議の面々との出会いでした。以後、鍛えていただきました( ;∀;)

このおばちゃんたち、とにかく肝がすわっていて、はっきり言う事も言うけど、やることはやる。それだけに、言葉に重みがあって説得力がありました。

初めて参加した会で、「それじゃ、会の会長をやってね」と当たり前のようにボールを投げられました。
「いえ! 議員もなったばかりだし。農業なんて何もわかりません!」と、何とか辞退しようと懇願したのですが「何言ってるの! やって覚えるのよ」と、ガチガチに張っている肩をポンとたたかれ、軽くいなされました。
町内で食用ひまわりを育て油に加工して販売している会だったり、大豆を育て味噌を販売している会、地域の道の駅に総菜を提供したりそば打ち体験のできる施設で活躍しているなどなど・・・。農業だけではなく、リサイクルの会や農協婦人部、交通安全協会、ヘルパーなど、とにかくみなさんの活動の場は多岐にわたりました。

このおばさんたちの原動力は一体何なんでしょうか? 
本人たちにこの疑問をぶつけてみたのですが、「成り行きだよ」と笑って言われました。「成り行きだけど、そうやってやってきたことは自分のためになった」と、どこまでも前向きなおばちゃんたちです。
長いお付き合いの間には、当然、意見が合わないこともありました。しかし、大好きな、そして尊敬してやまない女性たちです。
時々、会って話をすると、とにかく笑いが絶えません。そんな中、このおばちゃんたちの事をちゃんと残しておきたいと思い始めました。そこで趣旨を話して、6人くらいで集まり始めたところでコロナ。
今年に入りようやく会を再開しました。

 

 肝っ玉母ちゃんたちの活動

 

たとえば、「男女共同参画」って言葉をご存じでしょうか? この言葉を聞いた時、正直ピンときませんでした。古臭くって堅苦しい“行政用語”って感じですよね。
富士見に住み、上記の肝っ玉母ちゃんをはじめ農家のおばちゃんたちの知り合いもたくさんできました。そんなおばちゃんたちから聞いた話はいつも私の心にガンガン響いてきました。
昔の農村の嫁の暮らしはきつかった。朝一番に起きて畑に出て、みんなと一緒に働き、合間に家事や子育てもこなして必死で働いた。それでも家族の中で嫁の地位は低かった。80才のおばあちゃんが「よそから来た嫁だから、いつまでたってもよそ者だ」と話してくれたのは印象的でした。

そこで、生涯学習で学んだおばちゃんたちは少しずつ活動を始めた。「あそこの嫁は」と言われることも多かったと聞きました。理解のある家族がいても続けるのは大変だったと思います。夜、会議から帰ってきたら、鍵を閉められて締め出されたなんて話も聞きました。家族に理解があったとしても、親戚や村中からの風当たりが強かったとも聞きました。
女性の地位の向上のために、女性も農業委員会や議会などの決定機関に入っていかなきゃいけない、と、日本中でこうしたおばちゃんたちが頑張ったんだと思います。そういった話を聞いて初めて、単なる「参加」ではなく、企画から事業に加わるという「参画」という言葉に、おばちゃんたちの思いがこもっていることも知り胸に落ちました。

こうした経験を聞くことを重ねていく中で、実はそんな小さな革命を起こしてきた戦士たちが、私たちの周りにもたくさんいるんじゃないかと気づきました。
私たちが、今、当たり前のように享受している暮らし、自由や平和は、自分たちの暮らしを良くしようとした人たちが戦って勝ち得てきたものなんですね。改めて実感しました。
そんな皆さんの体験談を聞きたいと、集まって話をする機会を何回か設けています。しかし、話があっちこっちに飛びまくって、笑いが止まらないこともしばしばです。女性団体の話が火事の話に飛んだと思ったら、ご近所さんの娘さんの話になったり、今度は持ち寄った料理の作り方に移ったりと・・・。でも、その時間がまた、とにかく楽しいのです。こういった出会いに巡り合えて、つくづく私って幸せ者だなって思います。

 

富士見町 農村女性連携会議

 

ここで話を農村女性連携会議に戻して、少し説明をします。現在、私の手元に残っている資料から抜き出したものなので、ひょっとして間違っている箇所があるかもしれませんがご理解ください。
この会は、富士見町内で農業に関わって活躍している団体を平成15年に町が主導して取りまとめて作られました。以下が参加団体です。

  • 農村生活マイスター
    女性農業士等認定制度の名称で、地域農業の振興や望ましい農家生活の推進など女性の立場から地域を豊かにするリーダーとして県が認定。

  • 農村女性ネットふじみ
    地域の農業の活性化推進や女性の視点から生活環境の改善、郷土色の伝承・特産品の掘り起こし等を行う。

  • 富士見味の開発研究会
    地域の行事食、郷土食、特産品の掘り起こしや農畜産物の味の開発等を行う。

  • 立沢ひまわりの会
    地域ぐるみでひまわりの栽培と搾油の活動を展開している。

  • JA信州諏訪富士見支部女性部
  • 富士見町の女性議会議員
  • 女性の農業委員
  • 町の男女共同参画推進委員

*事務局は、町の産業課農業係及び生涯学習課男女共同参画係等が担い、会の運営を支援。

上記の参加団体に参加して、様々な研修会で学んだおばちゃんたちが地域のリーダーとして活躍の場を広げていったんですね。

ある方は、農村生活マイスターとして研修を受けていた中で家族経営協定の事を知った時、それまでの生活を思い返して「とんでもない刺激を受けた」と振り返っています。家長が家族の中で精神的にも経済的にも実権を握っている事が、ごく普通だった農家の生活。長男でもなかなか経営やお金について口を出すことが難しかった、と聞きます。経営協定は、みんなが経営についても意見を言ったり役割分担などを話し合って、明文化しておこうという動きでした。
確かにとても大切なことですが、家族の中で話し合うこと自体が難しい雰囲気でもあったようです。そんなところをこういった活動が後押ししてくれたんだと思われます。

これを書いていて、我が家でも夫と二人の間で協定を結んだのを思い出しました。農家ではないので、“私たち夫婦の約束事”、として家族協定を結びました。今まで協定を結んだことさえ忘れているくらいなので大きな口を叩けませんが、おばちゃんたちが言うように話し合う機会を持てたことが大切だったと思いました。読み返しても、なかなかいい内容で、時々振り返らねばいけないな、と反省した次第です。

こうして自分自身もその一端を体験しながら、本当に一歩ずつ積み重ねていって社会を変えようとしてきたおばちゃんたちの追体験をしている気がしました。おばちゃんたちと話していて、私自身に置き換えてもなるほど!と胸に落ちたことがいくつかあります。
県や町の研修会に出ることは夫や姑にも許されて、家から解放された時間にもなったそうです。大切ですよね、そういった時間を持てたことも活動に勢いがついた理由の一つにもなったのでしょうか。

折しも、先日のG7でも男女共同参画について議論されました。世界経済フォーラムが6月20日に発表した2023年度版男女平等ランキングでは、日本は146か国中125位だったそうです。しかも会議の議長を務めた小倉女性活躍相をのぞく、各国と組織の代表9人全員が女性だったとの事。道はまだ遠いですね。

 

会合を彩る自慢の食やアイテム

 

話は変わりますが、富士見町に来てから、お茶と漬物でお腹がいっぱいになることを知りました。おばちゃんたちが集まると、自慢の漬物やら保存食やら並びます。写真はある日の持ち寄り品。私はと言えば、お皿とお茶だけ用意して行きました。

 富士見町の農業を支えた "肝っ玉母ちゃんたち" の話

①ズッキーニの辛子漬け
②タケノコとホタテ煮
 (ホタテはすでにご主人に食べつくされてなくなっていた)
③セロリの佃煮
④梅の甘露煮
⑤ぺちゃ豆の甘煮
⑥フキの甘酢煮
⑦フキの甘煮
⑧梅のシロップ煮
⑨沢庵の味噌漬け
⑩赤飯

④の梅の甘露煮は50度くらいで何度も煮含めているので皮が割れずに味もしみるとの事。
⑤ぺちゃ豆は乙事地区に残されていた豆であまり出回っていないそうです。
⑨の沢庵は漬かり過ぎたものを塩抜きして味噌に漬け直したもの。

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この日のデザートは冷凍の干し柿。
食べる頃には、丁度いい具合に解けていました。ほんとに何も無駄にしないし手際の良いおばちゃんたちです。

 

富士見町の農業を支えた "肝っ玉母ちゃんたち" の話

富士見町の農業を支えた "肝っ玉母ちゃんたち" の話

料理のほかにも、農作業の時に帽子の下に被るための手ぬぐいの帽子や、大きなポケットのついた前掛けも披露されます。
「いいなあ~。欲しいなあ~」と、言っておくと何回目かの会の時にはゲットできます。
(ばっちり! 次の会の時に手ぬぐいの帽子をゲットしました(^^)v)

これからもう少し詳しく話が聞けたらいいなと思っています。でもお分かりのように並んだ料理の自慢話から始まるので、ゆっくりと楽しい時間を重ねて、話を聞く時間も楽しみたいと思っています。

(Written by エンジェル千代子)

ルバーブ生産組合や井戸尻応援団をはじめ、様々な団体で富士見町の活性化のために活動中